美容院の開業で悩むもののひとつとして、法人にすべきか個人事業主にすべきかという問題があります。
厚生労働省の美容業の実態調査でも、全体の78%は個人事業主ですが、残り22%は法人です。
書店のビジネス書のコーナーでも、法人化することで税金が抑えられるハウツー本も出ています。
しかし、筆者としては美容室に関しては、特に開業時には個人事業主から始めることをオススメします。
そこで、これから独立する美容師のために、法人にすべきでない理由をまとめました。
法人の設立費用は25万円前後
個人事業主の開業は、税務署などの行政機関に開業届を提出するだけですが、法人の設立には設立費用が必要となります。
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株式会社を設立するには、定款の作成や印紙代、司法書士への手数料などで25万円前後の費用が必要となります。
最低資本金の廃止により1円でも株式会社を設立できますが、内装工事や設備費などの開業資金を考えると、25万円の負担は大きく、できれば避けたいと思うのが当然です。
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個人と法人で2度の確定申告
法人を設立すると、個人とは違う別人格が生まれることになります。
そうすると、法人は個人とは別に確定申告の義務が生じます。
節税のハウツー本では、その2つの人格を利用することで、税金を抑えようとするものもあります。
しかし、節税の管理には手間とノウハウが必要ですし、その作業を税理士に依頼する場合は、2重の決算料が必要になる可能性があります。
なお、個人の決算期は誰でも12月31日ですが、法人の場合は自由に選ぶことができます。
赤字でも最低7万円の税金
個人事業主の決算で赤字になると所得税は発生しませんが、法人だと赤字でも地方法人税の均等割という税金が発生し、最低でも7万円の納税が必要となります。
この均等割という税金は、資本金や従業員数などで変動しますが、小さな美容室では最低ラインの7万円を想定しておけば大丈夫です。
開業当初は少しでも運転資金を確保したいはずなので、赤字でも発生する税金は避けたいはずです。
役員変更登記が義務
意外に忘れがちですが、法人は取締役(役員)と代表取締役(社長)を選任しなければなりません。
そして役員には任期があるため、任期を満了すると、再度選任し法務局に、役員変更登記をしなければなりません。
これは義務のため、忘れていると過料の可能性があります。個人事業主では任期という考えはないため、任期の管理や登記自体も必要ありません。
なお、役員の任期は最長10年にできますが、10年後の登記を覚えていられるのでしょうか。
社会保険への加入義務
法人では原則、健康保険や厚生年金の加入義務があります。
法人として社会保険に加入すると、従業員の社会保険料の半分を負担することになります。これは義務のため滞納すると延滞金も課されますし、利益と関係ないため赤字決算でも納付義務があります。
開業当初は運転資金の確保が重要のため、毎月の社会保険料の負担は大きなものです。
個人事業主の場合、美容業は従業員の人数にかかわらず社会保険の加入義務はなく任意加入となりますが、法人になると一般企業と同じように社会保険への加入義務が生じます。(個人事業主でも従業員が1人でもいれば労働保険への加入義務があります)
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(おまけ)法人化のタイミング
法人化のメリットも当然あるため、売上が順調に伸びている個人事業主は法人成りも検討しましょう。
一つの目安は『売上が1,000万円』を超えるラインです。前々年の売上が1,000万円を超えると、原則として消費税の納税義務が発生するため、そこが法人化の一つのきっかけとなります。
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まとめ:法人はコスト面と義務の面で当初は不利
これから美容室を開業する美容師のために、開業時は法人にすべきでない理由をまとめました。
- 設立費用が25万円前後
- ニ度の確定申告の義務
- 赤字でも発生する税金
- 役員変更の義務
- 社会保険への加入義務
この記事は、あくまでも開業時の目安の一つのため、今後の展望や取引条件などで、法人にするケースもあります。
ただし、一人から数人規模の小さな美容室を計画している場合は、個人事業主のほうをオススメします。