サラリーマンから自営業者になって大きく変わるのが税金の申告ではないでしょうか。
給与所得なら年末調整で完了していた税金計算が、独立開業すると自分で所得と税金を計算して申告しなければなりません。
独立開業すると『知りませんでした。』では通らなくなるのが確定申告です。
そこで、美容室や整体など独立したばかりの自営業者のために、確定申告で抑えておくべき基本をまとめました。はじめて確定申告する方は参考にしてみてください。
※この記事は、平成28年分の所得税の法令に基づいて記載しています。あらかじめご了承ください。
確定申告で計算されるのは所得税だけじゃない
先述のとおり、確定申告は自分で所得と税金を計算する『申告納税制度』という点でサラリーマンと大きく異なります。
1月から12月までの収入と経費をまとめ、3月15日までに確定申告書を提出して納税をします。(振替納税だと4月中旬から下旬が納付日となります)
個人事業主の3月の確定申告で計算される税金は、所得税と消費税※ですが、この他にも確定申告書の数字を使って翌年の『住民税』『健康保険税』『保育料』なども計算されます。
つまり、確定申告は所得税や消費税以外にも影響をあたえるので、未提出だと自動的にさまざまな支払いが滞ることになってしまうため、必ず申告をしなければなりません。
※消費税は納税義務がある場合のみ申告が必要です。くわしくは『3分でわかる美容室の消費税の納税義務と簡易課税の基本』を参照してみましょう。
開業時に提出すべき届出書
美容室や飲食店など事業を開始するときは、開業届をはじめ税務署や市区町村に必要書類を提出しなければなりません。
開業届や青色申告承認申請書など必ず提出するものから、消費税の課税事業者の選択届出書など必要に応じて提出するものがあるため、それぞれの事業に合わせて準備しなければなりません。
必要な書類を提出することで、青色申告特別控除などのメリットが受けられたり、年末調整説明会や記帳説明会の通知が届き、申告に必要な知識を学べます。
ただし、届出書によっては提出期限があるため、特例を受けたいと思っても、提出期限を過ぎると受けられないこともあります。
- 個人事業の開廃業等届出書 ・・・事業を開始した場合 ※税務署だけでなく市区町村にも提出が必要
- 所得税の青色申告承認申請書・・・青色申告の承認を受ける場合
- 青色事業専従者給与に関する届出書・・・青色事業専従者給与額を必要経費に算入する場合
- 所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書・・・住所地に代えて事業所等の所在地等を納税地とする場合
- 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書・・・棚卸資産の評価方法及び減価償却資産の償却方法を選定する場合
- 源泉所得税 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書・・・給与等の支払を行う事務所等を開設した場合
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書・・・源泉徴収した所得税の納期について年2回にまとめて納付するという特例の適用を受ける場合
- 消費税 消費税課税事業者選択届出書・・・課税事業者を選択する場合
- 消費税課税期間特例選択届出書・・・課税期間の短縮を選択する場合
- 消費税簡易課税制度選択届出書・・・簡易課税制度を選択する場合
[参考ページ]
タックスアンサー№2090│国税庁ホームページ
青色申告と白色申告で異なるメリット
確定申告でよく聞く青色申告とは、法律で決められた帳簿に日々の取引を記録して、それに基づいて確定申告書を作成することをいいます。
ルールに従って確定申告することで、税金計算でさまざまなメリットが受けられます。特徴的なメリットは次の3つです。
- 青色申告特別控除・・・所得から最大10万円または65万円の控除が可能
- 青色事業専従者給与の経費参入・・・配偶者や親族の給与を経費にすることが可能 ※事前に上記『青色事業専従者給与に関する届出書』の提出が必要
- 純損失の繰越しと繰戻し・・・赤字を翌年以降3年間の所得と相殺可能
青色申告のメリットを受けるためには、上記『青色申告承認申請書』を提出期限までに提出しなければなりません。
この記事では、帳簿の種類や書き方は省略しますが、上記『開業届』を提出しておくと、税務署で開催される『記帳説明会』の通知が来るので、参加して学ぶことができます。
なお、白色申告は決まった帳簿がなく取引の記録が簡単ですが、青色申告のメリットを受けることは出来ません。※帳簿を付けなくていいわけではありません。
自営業者の確定申告の流れ
自営業者の方の確定申告の大きな流れと必要となる時間の目安は、次のようになります。
1.開業届等の提出・取引の記帳(~1年)
まず開業したときは、先述のとおり、必要な届出書を提出し、日々の取引を帳簿に記録していきます。
年末に一括で処理しようとすると忘れたり大変なので、1ヶ月毎に処理しておくと安心です。
なお記帳は、会計ソフトと紙の帳簿のどちらでも構いませんが、会計ソフトは慣れてくると処理が早くミスも防止できます。
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2.資料の収集・整理(1時間)
1年分の記帳が終わる1月の終わり頃になると、確定申告に必要な資料が揃うので、整理をしていきます。
事業に必要な資料は記帳もれのチェックをしましょう。また、所得控除で使う資料は、事業の資料とは区別して整理しておきます。
所得控除に使う資料の例としては、次のものがあります。(一部のみ)
- 生命保険料控除証明書
- 地震保険料控除証明書
- 医療費の領収証
- 小規模企業共済掛金払込証明書
- 国民年金保険料の控除証明書
- 国民健康保険の証明書
3.確定申告書の作成(3時間~1日)
事業所得の計算
まずは、記録した帳簿から事業所得を計算していきます。
会計ソフトを使用している場合、同じソフトで計算できると思います。なお、国税庁のホームページでも無料で確定申告書を作成できるツールがあります。オンライン上で操作するのでネット環境があれば誰でも使用できます。
開業1年目の場合は、内装工事や設備の購入もあると思いますが、会計ソフトや国税庁のツールでは、固定資産を登録することで減価償却費を自動で計算してくれます。
所得控除の計算
事業所得の計算の次は、収集した資料を参考にして所得控除を計算していきます。
事業所得の計算と同じように、ソフトに従って入力していくことで、所得控除の計算も誰でも簡単にできます。
ただし、資料が揃っていないと金額を入力ができないため、万が一紛失してしまった場合は、年金なら年金事務所のように、資料の発行機関へ連絡して再発行の手続きをします。
4.税務署への提出と納付(1時間~1日)
確定申告書が完成したら、紙または電子で税務署へ提出します。
紙の場合は、税務署へ持参しても郵送で提出しても構いません。(郵送で提出する場合は、『郵送で開業届を税務署へ提出する方法』を参照)
電子の場合は、事前にマイナンバーカードの申請や、利用者識別番号の取得、カードリーダーの購入など事前の準備があるため、1年目は大変ですが2年目からは申告の手間が減ります。
[参考ページ]
引用│国税庁ホームページ
納税方法は、金融機関で直接納税する方法と、通帳から引き落とされる振替納税があります。
直接納税する方法だと納期限が3月15日ですが、振替納税だと4月中旬から下旬に納期限が延長されます。ただし事前に手続きが必要なので、希望する方は確定申告書と一緒に提出しましょう。
なお、改正で平成29年から国税のクレジットカードでの納税も解禁される予定です。
5.申告書控えと資料の保管(7年間)
申告と納税が完了したら、確定申告の作業は完了です。
翌年の申告に備えて、確定申告書の控えと帳簿、資料はしっかりと保管しておきましょう。帳簿関係については基本的に7年間の保存しなければなりません。
複式簿記で事業所得から控除できる65万円
事業所得から青色申告特別控除として最高65万円を控除するには、次の要件があります。
- 青色申告の承認を受けている
- 複式簿記で帳簿を記録している
- 確定申告書に貸借対照表を添付する
簿記検定3級の知識があれば、会計ソフトを使うと比較的簡単に要件を満たすことができます。
なお、不動産所得については、所得が事業的規模であることも要件の一つとなるので注意しましょう。
節税に使える13の所得控除
所得税の計算では、所得金額から控除できる項目が13個あり(基礎控除を含めると14個)、複数の控除を使うことで、所得金額を大きく減らすことができます。
それぞれの控除には要件があるため、自分に合った控除を探してみましょう。
- 雑損控除・・・災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合
- 医療費控除・・・自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合
- 社会保険料控除・・・自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合
- 小規模企業共済等掛金控除・・・小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金等を支払った場合
- 生命保険料控除・・・生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合
- 地震保険料控除・・・特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料や掛金を支払った場合
- 寄付金控除・・・納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し寄附金を支出した場合(ふるさと納税を含む)
- 障害者控除・・・納税者自身又は控除対象配偶者や扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合
- 寡婦(寡夫)控除・・・納税者自身が寡婦(寡夫)であるとき
- 勤労学生控除・・・納税者自身が勤労学生であるとき
- 配偶者控除・・・納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合
- 配偶者特別控除・・・配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者の所得金額に応じて所得控除が受けられる場合
- 扶養控除・・・納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合
- 基礎控除・・・一律に適用される38万円の所得控除
[参考ページ]
タックスアンサー№1100│国税庁ホームページ
3月15日の申告期限と納付期限
確定申告書は、翌年の3月15日が提出期限となります。ただし、15日が土日となる場合は、翌月曜日が提出期限となります。
また、提出期限と納税期限は同じため、3月15日が納税期限となります。
しかし、銀行やゆうちょからの引落しを設定する振替納税の届け出をすると、納期限が4月中旬から下旬に伸びます。納税資金の準備期間が必要な方は検討してみましょう。
なお、この他の納税方法として、電子納税という方法もあります。知りたい方はこちらを参照しましょう。また、平成29年からはクレジット納付も予定されています。
所得税は分割で納付できる
意外と知られていませんが、所得税は2回に分けて納付することができます。
最初の納税期限(3月または4月)に全体の2分の1以上の税金を納付すれば、残りの税金の期限を5月31日まで延長できます。
ただし、延納期間中は、利子(利子税という)が発生します。※平成28年分については年1.8%
所得税を延納するには、確定申告書の右下に延納する金額を記載します。
まとめ:ポイントを抑えれば簡単な確定申告
自営業者がはじめての確定申告で抑えておきたいポイントをまとめてみました。
美容室や整体・飲食店など自営業者として開業したばかりの方は、これを参考にして確定申告に挑戦してみてください。
それでもできないという方は、税理士にお願いしてみましょう。