黒川博行『後妻業』を読みました。後妻業について知らない人には是非読んで欲しい一冊です。
実際に福岡であった保険金殺人を参考に書かれた小説なので、とても現実味があり、公正証書遺言や遺留分など相続税の知識も学べます。
ですが、黒川博行作品なので、とてもおもしろく展開が早いので、読んでいて飽きません。
これからの高齢化社会で起こりうる問題を予想したような作品で、個人的にはとてもオススメです。
あらすじと感想
柏木は、自身が経営する結婚相談所に登録した資産家の高齢者を狙って、後妻業の小夜子を紹介します。
紹介を受けた小夜子は、高齢者と婚姻して妻となり、さらに公正証書遺言を書かせてすべての財産を相続するという悪行を繰り返します。
ここでいう後妻業とは、資産家の高齢者を狙って、後妻となって財産を相続することをいいます。
しかも、小夜子の場合は、多額の収入を得るために、何度も結婚と相続を繰り返します。さらに長生きの高齢者には、相続を発生させるためにあらゆる手段を使います。
この小説の面白いところは、現実でも起こりうる問題という点です。
高齢化が進むことで、妻に先立たれた寂しさや、老後の安心を求める高齢者が結婚相談所に登録するケースが増えてきました。独身高齢者のための結婚相談所やパーティーも増えました。
そのなかには資産家もたくさんいるため、後妻業にその財産を狙われる可能性があります。
また、現在の相続税の計算では、婚姻期間に関係なく、後妻にも法定相続分が認められるため、婚姻して1年ちょっとの後妻も相続の権利があり、子供としては突然の後妻の登場は青天の霹靂です。
小説では、公正証書遺言の効力が絶大であることも書かれています。後妻である小夜子が高齢者に公正証書遺言を書かせ、それを使って子どもの相続分を認めないという場面があります。
しかし子どもも弁護士をたてて、法定相続分の半分は最低限認められるという『遺留分減殺請求』をします。もし遺留分を知らなかったら全ての相続財産が後妻に相続されてしまいます。これは現実でも同じです。
高齢化が進むと、高齢者の婚姻が増えることが予想されますが、配偶者の相続権に関する法律は昔のままです。
この後妻業という小説は、『相続と争続』について今後起こりうる社会問題を提起した作品だと思いました。相続に不安がある方はオススメの一冊です。
なお、婚姻期間や介護の負担を相続分に反映しようという議論があるので、今後法律が改正される可能性もあります。