西加奈子『サラバ!(上・下)』を読みました。
直木賞受賞作で、テレビでも何度も取り上げられている作品です。PEACEの又吉やオードリーの若林など読書芸人でオススメしています。
『漁港の肉子ちゃん』や『円卓』など著者の本は好きで、何冊も読んでいますが独特の雰囲気があり本書も変わったテイストです。上下巻で700ページを超える作品で読み応えがあります。
あらすじ&感想
主人公の圷歩(あくつあゆむ)は、イランで生まれます。ハッキリした性格の母親と物腰の柔らかい父親、そして常に何かと目立つ(悪い意味で)姉の4人家族のもとで育ち成長していくストーリーです。しかも一人称ですべて書かれています。
何かと母親に反抗する変わり者の姉のせいで雰囲気が悪い家族のもとで、歩は他人の目を気にしながら生活するくせが身につきます。歩の成長に合わせて生活の場がイラン・日本・エジプト・日本と移っていきますが、歩の性格は基本変わりません。それでも徐々に歪んでいきます。(たぶん周りの影響ではなくもとから歪んでいるのかも)
そして読むとわかりますが、周りの空気を読んで生活する歩が、本来自己主張が強いのが見え隠れしています。そして容姿が優れている?ことを隠して生活しようとしますが自信があるのが隠せていません。読んでいるとムカついてきます(特に高校生から大学生あたり)
変わり者の姉、何か信念を持つ母、揺れる父親、エジプトで出会ったヤコブ、みんなの相談役のおばちゃん、親友の須玖(おそらくモデルは又吉直樹)、ビッチな鴻上など特徴的なキャラクターに囲まれながら成長し揺れる歩の青春小説であり、自伝的小説です。また著者自身の私小説的要素あるような気がします。
感想としては『おもしろいけど長い』です。青春小説になると長くなるものなのでしょうか。百田尚樹『錨を上げよ』もめちゃめちゃ長かったですし。(東山彰良の『流』は一冊に収まっていましたけどね)
上巻冒頭の第一章がおもしろいので夢中になりますが、第2章以降は姉の突飛な行動(巻き貝やご神木など)などけっこうしんどいです。ですが下巻後半に入ってから物語が動き出すので、そこからまたおもしろくなります。
西加奈子さんで大好きな『円卓』や『漁港の肉子ちゃん』を先に読んだこと、直木賞を受賞して、芸能人もオススメしていることから期待しすぎた分自分には物足りませんでしたが、又吉直樹や中村文則など文学的な作品が好きな人にはおもしろいのかなと思います。
直木賞は大衆文学が背景にあるので娯楽性や商業性が重視されるとイメージしていたけれど、直木賞を取ったからおもしろいと思わないほうがいいのかもしれない。ですが、これまでの西加奈子さんの素晴らしい作品は読み返すし、これから発表される作品も読むと思います。