法人成りとは個人事業主から株式会社などの法人へ組織変更することです。たとえば、個人の美容室として開業し軌道に乗って利益が出始めたタイミングで株式会社に変更することをいいます。
事業内容が変わらないため見た目の変化はありませんが、事業主が個人から法人へ180度変わるため、事業で利用していた減価償却資産も法人へ引き継がなければなりません。
そこで、美容室など小規模な個人事後業主のために、法人成りで減価償却資産を個人から法人へ引継ぐ方法をわかりやすく紹介します。
減価償却資産を法人へ引継ぐ方法
美容室など小規模事業者が法人成りしても、事業主が社長(代表取締役)になるだけで実態に大きな変化がないため分かりづらいですが、事業の所有者はは個人から法人へ明確に交代することになります。
法人を設立した段階では、法人の財産は何もない状態(資本金はありますが)のため、減価償却資産を含む個人の事業用財産を個人から法人へ引き継がなければなりません。
その方法として次の3つの方法が想定されます。
[方法1]法人へ売る(譲渡)
減価償却資産を個人から法人へ売る(譲渡する)方法です。法人の社長も個人事業主と同じため違和感がありますが、株式会社などは法人格という別人格があるため譲渡することができます。
減価償却資産を法人へ譲渡した場合は、個人は譲渡所得として申告します。注意したいのは事業用資産であっても事業所得ではないということです。
譲渡価格は時価となりますが、減価償却資産の時価は簿価と一致するため、売却益は出ません。ただし譲渡代金は消費税の課税売上に該当するため、消費税の課税事業者となっている場合は注意が必要です。
一方法人としては、新しく固定資産を購入したことになります。そのため、取得日(事業供用日)は当初の購入日ではなく、譲渡した日になります。また、固定資産の償却方法は取得日(事業供用日)によって変わる可能性もあるので注意が必要です。
[方法2]法人へあげる(贈与)
減価償却資産を個人から法人へあげる(贈与する)方法です。
個人事業主の所得税の計算では、時価の2分の1未満の対価で譲渡すると、時価で譲渡したとみなされます。そのため贈与であっても時価で譲渡したものして譲渡所得となります。
ただし、方法1の譲渡と同じで、『時価=簿価』のため譲渡益は出ません。消費税は課税売上とるところも譲渡と同じです。
株式会社などの法人税の計算では、個人から贈与を受けた固定資産は受贈益(収益)を計上します。ただし、計上した資産は減価償却して経費に計上していくため、年数が経過すると計上した金額と同じ額が経費となります。なお取得価額は時価のため、法人成りしたときの簿価となります。
[方法3]法人へ貸す(賃貸)
減価償却資産を個人から法人へ貸す(賃貸する)方法です。
所有者は個人のまま変わりません。有償で賃貸すると賃貸収入として雑所得(資産によっては不動産所得)として所得税を計算します。無償で賃貸(使用貸借)すると課税関係は生じません。
法人税の計算では、有償で賃貸すると賃貸料を経費として法人税を計算します。一方無償だと課税関係は生じませんが、維持費など少額な費用を負担すれば経費にできます。
おまけ:現物出資
ほとんど使いませんが上記とは別に、減価償却資産を法人へ現物出資する方法があります。
考え方としては、資産を法人へ売った『売却代金』を法人に出資するという2段階の手続きをまとめて『現物出資』といいます。
手間や手続きが必要なため、美容室など小規模事業者の法人成りでは考慮する必要はないと思います。
まとめ:引継ぐ方法で異なる税金
美容室など小規模な個人事業主が法人成りした場合の、減価償却資産の引き継ぎ方法についてまとめました。
ポイントとしては、①法人と個人を別物として考えることと、②時価と簿価が一致していることです。
この記事では、分かりやすく説明するため概略となっています。詳しくは専門家である税理士や税務署で確認してみましょう。