木内昇『漂砂のうたう』を読みました。第144回直木賞受賞作です。
時代小説なので言葉が難しい部分がありますが、全体的には美しい文章でさすが直木賞と唸る作品です。
木内昇(きうちのぼり)さんの作品は1作も読んだことがなかったですが、今作で興味を持ったので、他の作品(茗荷谷の猫や幕末の青嵐など)も読んでみたいと思わせてくれました。
あらすじ&感想
時代は江戸から幕末そして明治へと時代が変わる頃のお話です。
その辺りの時代の小説だとどうしても新撰組や坂本龍馬など日本史のスーパースターが登場しがちですが、本作はそんな時代の主役たちの影に隠れて、時代に取り残されていく遊郭の人たちが主役です。
主人公は武家に生まれながら、倒幕も維新にも参加することなく、遊郭の立番となった次男坊です。
そして、遊郭という変わりゆく時代に翻弄される廓(くるわ)で生きる人々の人間模様が描かれます。
廓で生まれ育ち廓を命がけで守る立番
廓から出ていこうとしない一番人気の花魁
誰にも指名されない夫に売られた花魁
大学校に憧れそして、現実に苛立つ下っ端
廓に突然現れるうだつの上がらない噺家
幕末に武士として死ねず車夫となった武家の長男
廓に生きる人々がそれぞれの事情と思いを抱えながらも、必死に生きようとするお話です。
感想として、最初は難しい話かと思いますが、読み進めて登場人物の背景を知るうちにおもしろくなってきます。
また、それぞれ登場人物の行動原理が、小説の後半で明らかになるミステリーの要素もあり飽きません。
なお、題名の漂砂とは、海に発生する様々な流れによって移動する土砂。のことで、変わらない廓内のしきたりや伝統で生きる人々が激動の時代によって翻弄されることを表現しているようです。
幕末について知らない人でも読める娯楽小説でした。